自分の未来をビルドしたい

未経験で職務経歴がボロボロの人がSEを目指していきます

畏怖

 先日の騒ぎはもちろんのこと、他の先生や教頭や校長の耳にまで入った。私はいじめの可能性はなかったのか、なぜ生徒にその場を任せたのか、詳細な顛末書を書くようにと散々だった。私はありのままを話し、顛末書にその状況をありありと書いてお決まりの文句「このようなことがないよう重々尽力して参ります」と書いて提出した。しかし、あのことは伝えてはいない。教卓のなかに入っていた血で描かれたような手紙らしきもの。あれは一体なんなのだろうか。「逃げて」とは何から、なぜ逃げなければならないのか、さらに手紙に書くにしろあんな禍々しい形でなぜ書いたのか。助言というより脅迫めいたものに私は感じ取っていた。いやなんでだろうか、私はあろうことかその忌々しき手紙を家まで持ち帰っている。こんなものはサッサと捨ててしまうに限る。こんなのはきっと誰かの悪質な悪戯だ。血文字もきっとそれっぽく書いているだけだ、と思っていた。だが、捨てられなかった。この手紙はもしかしたら重要なものになるのではないか、持っていなければならないのではないか、この手紙の意味の答えを出すまで持っておくべきではないかという所謂第六感がそうはさせなかった。改めて手紙をしげしげと眺めて見た。「逃げて」。いまの冷静な精神状態で見てもゾッとしないものだ。これは本当に血なのか、と思い匂いをスンと嗅いでみて後悔した。錆びた鉄のような匂い、生臭い液体の匂い。血だ。そう確信せざるをえないと嗅覚で判断した。悪戯で血を用いてまで普通はするだろうか。もしや生徒以外の不審者が紛れ込んでいたのか。いやいやだとしたらこのメッセージと行動が矛盾する。もしこのメッセージが私に危害を加えることを意味するものだとしたら納得できる。しかし、これはどうみても助言だ。だからこそ理解に苦しむ。私はこのことで延々と頭をううんと抱えて悩んでいた。机の上に置いたマグカップのコーヒーもすっかり冷めきってしまっている。せっかくのブルー・マウンテンが台無しだ。その時、ピンポーンと呼び鈴の音がした。誰だ、こんな夜に。私は重い腰を革製の安楽椅子からよっこらせとあげて玄関に出向いた。あんなことがあった後だ、私は用心してドアの魚眼レンズを覗き込み訪問者が誰かを確かめて解錠しようとした。

「先生、開けて…」

私はゾッと寒気がした。そこには生徒の縁遠がいた。それだけならいい。しかし彼女の姿をみて私は胸がぎゅうと縮み、かすかに手が震えぬらりとした汗をかくのを感じていた。

彼女は、頭から胸まで真っ赤な血のような液体を浴びていたからだった。セーラー服のスカートからは血のような液体をがぽたりぽたりと落ちていた。私の悪夢はいつ冷めるのだ。仕方なく、私は震える手でかちゃりと解錠し彼女を招き入れてしまった。