自分の未来をビルドしたい

未経験で職務経歴がボロボロの人がSEを目指していきます

紙片

「先生、どうかしました」

彼女のピアノの音のように儚げな声が今は私に取っては背筋を凍らせた。思わず開いたドアをバタンと勢いよく閉めてしまい、彼女を少し驚かせてしまったようだ。

「どうもしないよ。それより、そのままだと風邪をひいてしまうよ。まだ夏とはいえもうすぐ立秋だ。油断大敵だぞ。」

彼女は依然として血塗られたおぞましい格好をしていて、側から見て恐ろしいやら可哀想やら様々な感情を抱く姿のままだ。着替えや何か体が温まるものや栄養のつくものを買い出しに行った方がいいだろう。その間に風呂に入って体を綺麗にして少しは落ちつてもらおう。そうだ、これは私の気持ちを落ち着かせるためにも必要なことだ。

「縁遠。私は、両親の方へ連絡したり、着替えなどの買い出しに出かけてくるよ。その間にお風呂に湯煎でも張って落ち着いたらどうだ。そのままだと流石に不快だろう。」

「そ、そうですね。ではお言葉に甘えて…ありがとうございます」

彼女は私に向かって小さく頭を下げた。下げた頭から血液のような液体がポタリと床に落ち、彼女は慌ててその箇所をハンカチで拭いていた。最もそのハンカチも真っ赤に染まっていたのだが。考えをさっきの落書きに戻そう。

私は部屋の鍵と財布をズボンのポッケに入れ、縁遠に誰か訪ねてきても居留守を使い決して出ないようにと釘をさして我が家を後にしてここから歩いて10分ほどで着くスーパーに出向いた。手には先ほどの落書きがある紙片もある。捨てていこうかと思っていたが、なぜか捨てようという気には慣れななかった。これは私への脅迫文なのだろうか。「もうおそい」とは何を意味をしているのだろうか。恐怖でまとまらない考えを必死で紡ごうとしていた。それにしても不可解だ。この紙片は私が部屋に入った時にはなかった。縁遠を部屋に招き入れた時にも落ちたような音はしなかった。もし縁遠が仕掛けたものだとしても彼女は入ろうとした時以外はドアには近づいていない。物理的に彼女が紙をドアに挟んだり、開けた瞬間に紙片に私が気付くような事は不可能だ。では第三者が仕掛けたというのか。なんのために、どうやって。それに気になるのは前の学校であった紙片と同じようなメッセージ性がある事だ。前は「逃げて」、今回は「もうおそい」。私は何から逃れるべきだったが、そのチャンスを逃したという解釈でいいのだろうか。しかし、何から逃げるべきで、そのチャンスを逃した私にはこれから何が降りかかって来るのだ。私はなるべく冷静さを保つように目的地へ足を運ぶようにしていた。この横断歩道を渡れば、もうすぐスーパー近くの電話ボックスだ。赤信号の色を見ていると憂鬱になって来る、今現在の状況を考えるとなおさらだ。しばらくすると青に変わった。私以外に歩行者がいたが一向に渡ろうとしない。しまった、まだ信号が変わり切ってなかったかと思い、信号機を見て後ろを振り向いたが、そうではないみたいだ。彼らは慌てた顔で私に指を向けていた。何をしているのだ、思った時には私の視界は真っ暗になった。まさしく何かが降りかかってきたみたいだ、笑えない冗談のような出来事が私にさっそく襲いかかってきた。これが本当の始まりだった。